先日、大学入試はパズルだという話を書いたとき例にあげた、問題をちょっと解説してみます。
まず問題文から
「n,k は自然数でk < n とする.穴のあいた2k 個の白玉と2n - 2k 個の黒玉にひもを通して輪を作る.
このとき適当な2 箇所でひもを切ってn 個ずつの2 組に分け,どちらの組も白玉k 個,黒玉n - k 個から
なるようにできることを示せ.」
問題文を読むと何を言っているのか全然意味不明なので、問題をすこしわかりやすく言い換える。
「白玉○を偶数個と黒玉●を偶数個持ってくる。
これらの玉をごちゃごちゃに混ぜて、円形に並べる。
この円を2カ所でわけると、二つの部分に分かれて
それぞれに、最初の白玉と黒玉の個数の半分づつが含まれるように分けることができる。」
という風になる。
絵を描くとこんな感じ ここでは白玉と黒玉を6個と4個にしている。
図の、斜めの線で二つの部分に分ける。
このとき、問題では、白玉と黒玉がちょうど半分づつ含まれるようにしたいということなので、
二つの部分には白玉3個と黒玉2個の合わせて5個にならないといけない。
全部で10個なのだから、全体の個数の半分づつが含まれるようにしないといけない。
つまり、分けるときには必ず半分づつに分けることになる。
これはほかの個数でも同じなので、さらに問題を言い換えると
「白玉と黒玉を偶数個づつ持ってきて、円上に等間隔に並べて、中心を通る線で
半分に分けたとき、片方には、白玉と黒玉がそれぞれ半分づつ含まれるようにできる。」
となる。
次に、分けるところを一つ動かす場合を考えてみる。
この図の様に、右回転で、分ける線を移動させると、
真ん中の図のようになって、線の右は、白玉が2個、黒玉が3個となる。
そして、線を左の図から半周させると右の図のようになって、中心から星のついている方をみて右側には
白玉が4個黒玉が1個となる。
そこで、中心から星がついている方を見て右側の部分に含まれる黒玉の数がわかれば、
ほかの数(右側の白玉の数や左側の黒玉や白玉の数)は決まってしまうのがわかる。
つまり、線の右側の黒玉の数が、黒玉全部の半分、つまり2個になれば、白玉は3個になり
左側も同じ個数になることがわかる。
ここで再び問題を言い換えると
「適当な順番で円上に等間隔に並べた白玉と黒玉を中心を通る線で二つに分けたとき
線の片側の黒玉の個数が全体の黒玉の個数の半分になるように線を引くことができる。」
となる。
次に、線を玉一つ分右に回転させたときのことを考えてみる。
中心から星がついている方を見てすぐ右側にある玉は線を玉一つ分の右に回転すると、線の左側になって、右側からは外に出てしまう。
それが黒玉だったら、右側の黒玉が1個減る、白玉だったら、黒玉の個数は変わらない。
同じように中心から星がついていない方をみてすぐ右側の玉は、線を玉一つ分の右に回転すると、線の左側に入ってきて、
中心から星がついている方をみて右側の半分に入ってくる。
それが黒玉だったら、黒玉が1個増える、白玉だったら、黒玉の個数は変わらない。
それぞれの場合を考えると全部で4通りの場合がある。
出て行く玉と入ってくる玉がそれぞれ、白と黒の場合で、それぞれの場合で黒玉の数は次のように変化する。
|
出て行く玉 |
白 |
黒 |
入ってくる玉 |
白 |
変わらない |
1個減る |
黒 |
1個増える |
変わらない |
つまり、1回の操作(線を玉一つ分右に回転すること)によって、黒玉の個数は、1個増えるか、1個減るか、変わらないかのどれかとなる。
そこで、ちょっと戻って、最初適当に線を引いたときのことを考える。
このとき、線の右側の黒玉の個数が、黒玉全部の個数のちょうど半分だったとしたら、
もうそれ以上何もしなくても半分づつに分けられていることになるから、ちょうど半分じゃない時のことを考える。
線の右側の黒玉の個数が、黒玉全部の半分より少なかったとすると
線の左側の個数は、黒玉全部の個数から、右側の個数を引いたものなんだから、必ず半分より多いことになる。
このとき、線を右回転で玉一つ分づつ動かしていったとき、何回か回転させていくと、ちょうど半回転したときには、
最初に線を引いたときとちょうど左右が入れ替わった状態になるので黒玉の個数は半分より多いことになる。
しかし、1個分動かしただけでは、黒玉の個数は1個の増減か変わらないかなので、
途中で、少なくとも1回は黒玉の個数がちょうど半分になっているところがある。
具体的には、たとえば、右側の玉の数が1個だったとして、全部で4個あったとすると、半回転したときは黒玉は3個になっているはず。
1回の操作では1個づつしか増やしたり減らしたりできないんだから、途中で2個という状態を飛ばして、
1個から急に3個になったりすることはできない。
だから、途中で線の右側の黒玉の個数が2個といういう時がある。
逆に適当に分けたとき、右側の黒玉の個数が半分より多い時は、残りの半分には、黒玉が半分より多くあるので、
やっぱり同じようにしていくと途中でちょうど半分になる時がある。
これは、玉の個数がいくつであっても同じことができるので、結果として、
白玉と黒玉を偶数個づつ持ってきて、適当に円形にならべた時、必ず半分づつに分ける方法がある
といえる。
これで証明は終わり。
何か特別な知識が必要だったでしょうか。
当たり前のことを言っていただけじゃないでしょうか。
この問題の要点は、適当に半分に分けたとき、分けた部分に含まれる黒玉の個数と残りに含まれる黒玉の個数は
片方が半分より多ければもう一方は必ず半分より少ない
ということと
1個増やして1個減らすという操作をするかぎり、黒玉の個数が急に変わることはない
という二つの点です。
当たり前じゃないですか。
実は高校で習う数学の中に中間値の定理というのがあります。
「関数が[a,b]で連続でf(a)≠f(b)ならばのf(a)とf(b)の間の任意の値をとる点cが存在する。」
という定理なんですが、
何を言っているのか?って感じだと思いますが
この定理が言っていることは
「標高100mの地点から、富士山の途中の標高1000mの地点まで上ったとすると
上る方法がヘリだろうと、車だろうと、徒歩だろうと、
100mから1000mの間の高度は必ず1回は経験する。」
と同じことなんです。
そして、この問題は、この定理と同じ様なことを整数の範囲で言うものです。
ただ、この問題は数学の数学らしさが出ていると思います。
つまり、適当な個数で適当な並べ方でも、必ず半々にする方法がある。
具体的な分け方や個数は知らないけど、方法はあるんだと言う。
実際に分けてみせるのではなく、分けることができるとだけ言って涼しい顔をしているところが
いかにも机上の空論の代表と言われる数学らしいところだと思います。
そういう意味でも、この問題自体は実生活では全く役に立たないのですが、考え方は役に立つと思います。